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江波山気象館 メールマガジン
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2013年 5月号
メールマガジン版江波山気象館情報しおかぜ

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風薫る
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 夏の季語に、「風薫る」という言葉があります。新緑の季節となり、爽やかな風が青葉若葉の香りを運んでくる言葉ですね。この「風薫る」は「薫風(くんぷう)」とも書きますが、平安時代には花の香りを運んでくる春の風を指して使われることが多かったようです。しかし、江戸時代には「風かをる」として和歌や俳句に登場し、初夏のころに吹く涼しい風の意味として使われるようになりました。
 さて、この「薫る風」の香りのもとはいったい何なのでしょうか?それは、フィトンチッドと呼ばれる、植物から発散される芳香性の微粒子です。1930年頃、旧ソ連のB.P.トーキン博士によって発見され、殺菌・殺虫作用などがあることから、フィトン(植物が)チッド(殺す)と名づけられました。殺す、と聞くと少し恐ろしい物質のように感じるかもしれません。しかし、植物の天敵である昆虫を忌避したり、病害菌に感染しないように殺菌をおこなったりと、植物自身を護る様々な働きがあるのです。
 フィトンチッドは、私たち人間にも様々な効果を発揮します。その香りから、リラックス効果があるというのは有名ですが、その他の身近なものでは、食品に対する防腐作用があります。たとえば、お寿司屋さんのガラスケースの中には、サワラやヒノキといった針葉樹の葉と共に寿司ネタが保存されています。これはフィトンチッドによる鮮度保持の効果を期待するためです。また、木製品になっても効果は持続します。樟脳の原料となるクスノキのフィトンチッドは防虫・防腐性に優れており、タンスにすると防虫剤が必要ないなどという利点があります。
 フィトンチッドは、特に光合成が活発で発散に適した気温になる6月〜8月ごろにかけて、多く発散されるようになります。一日のうちでは昼頃が多く、風がない時より、多少風がある時の方が発散量は多いようです。
 ところで、この初夏の季節は、日本が移動性高気圧に覆われて晴天になることが多いため、吹く風は穏やかです。さらにこのころの移動性高気圧は、比較的暖かで乾いた空気を運んできます。そのため、初夏の風はフィトンチッドの香りと相まって、とても爽やかに感じられるのです。
 五月の風は、様々なタイミングで感じることができますが、五月の風に乗って泳ぐこいのぼりが代表的です。今年の五月五日は関東から九州にかけて高気圧に覆われましたので、青空の下、穏やかな風に乗って泳ぐこいのぼりを見かけることができた方も多いのではないでしょうか。
 爽やかな気候を楽しめるのは、梅雨に入るまでのあまり長くない期間です。「薫る風」を改めて感じてみると、初夏をさらに楽しめることでしょう。